フォーカサーのための「フォーカシングのこつ」2006年11月11日号#169

”分かりたくなんかない”
内側の声を聴いてみましょう、ということについていつもお話ししていますが、「内側の声を聴くのはこわいんです」というメールをもらいました。とても興味深い反応ですね。でも、これは決して珍しいことではありません。私たちの誰もが、多かれ少なかれそういった気持ちをもった経験があるはずです。もちろん、わたし自身にもそういうことがありました。

 

こんな気持ちになるのには、いろんな理由があるでしょう。ひょっとしたら、それはあなたのどこかが、まだこころの準備ができていないのに、自分の内側の声が、生き方を変えたほうがいいんじゃないの、と言ってくるのを、こわがっているのかもしれません。「もし内側の声を聴いたら、その通りにしないといけなくなっちゃうんじゃないか」

 

とても面白いですね。というのは、聴きたくない、と思っているあなたは、実はすでにどこかで、そう言われるだろうなあ、ということを気づいているのです・・・ひょっとしたら、それこそが本当に自分にとって必要なことなんだろう、ということさえももう分かっているのかもしれません。ただ、まだその準備ができていないだけで。
ウッディ・アレンが「アニー・ホール」の終盤で言っていたジョークを思い出します。ある男性が、精神科医のところに相談に行きます。家族の一人が、自分のことを、にわとりだと思いこんでいるから、と言って。

「ねえ先生、なんとかしてくださいよ!」と彼は懇願します。ただ、「でもね、あんまり早く治してくれすぎても困るんですよね。卵がなくなっちゃうと困るんで」。

 

さてもちろん、聴く、ということは、聴いた何かを実際に行う、ということとは違います。私たちはただ、耳を傾けて、そうなんだね、と分かっておくだけでいいのです。そしてその時、もしまだその準備ができていないんだけど、ということであれば、それも分かっておくだけでいいのです。ただそうやって「分かっておく」というだけで、気持ちはずいぶんホッと楽になります。

 

”感じたくなんかない”

内側にあることなんて聴きたくない、となってしまうことのもう一つ考えられる理由は、あなたのどこかに、内側の声はあなたに、何かつらいことを見せたがってるのではないか、あるいは伝えたがっているのではないか、ということをこわがっている部分があるのかもしれないということです。あなたのどこかに、内側にある真実に触れてしまったら、つらい気持ちが襲ってくるのではないかという恐怖感があるのかもしれません。

 

フォーカシングをしていて、途中で行き詰まってしまうときに(あるいは、フォーカシングそのものを始める前に!)、このような状態がしばしば起こっています。私たちは、このようなつらい気持ちはイヤだ、と思ってしまう自分の一部が自分のすべてだと思ってしまいがちだからです。そして、「わたし」はそんな気持ちはイヤだ、となってしまいます。そうでなくて、「わたしのどこかに」そんな気持ちはイヤだと思っているところがあるんだ、と気づくのは難しいのです。
あなたは内側の気持ちに触れる必要はありません。あなたは、そんな気持ちは感じたくない、と思っている自分の「どこか」を無理に感じる必要はないのです。あなたはただ、その「感じたくない」と一緒にいる、それだけでじゅうぶんなのです。それだけでもじゅうぶんに深い意味があります。ただその部分と一緒にいることだけでも、それはたくさんのことをあなたに伝えてくれるでしょう。そして、ただ聴いてもらえたというそれだけで、そこから安心と、そして変化が生まれてくるはずです。

 

時には、内側に何があるのかをみつけようとしないことで、それが何なのかを見つけることができるのです・・・安全な状態で。わたし(注:アン・ワイザー・コーネル)のDVD、「内側の関係とのフォーカシングのデモンストレーション」では、フォーカサーが巨大なカギのかかったドアを内側に見つけるという例が出てきます。そのドアはこれ以上巨大でぶあついドアはない、というぐらいのものでした。「そのドアの向こうに踏み込んでいくなんて、とてもじゃないけど考えられない」とフォーカサーは言いました。

 

私はこう言ってみました。「そうね、じゃあ、ドアの向こう側に行こうとするんじゃなくて、そのドアそのものと一緒にいてみましょうか」。フォーカサーのからだはリラックスしていきました・・・そしてすぐに、彼はすーっと安全に、ドアの向こう側に何があるのかを感じることができたのです。それはとてもこわれやすい繊細な何かでした。決してこわいものではありませんでした・・・私たちがプレゼンスの状態になりさえすれば、それは決して恐ろしい何かではなかったのです。

(Copyright: Ann Weiser Cornell、翻訳:土井晶子、本サイトへの転載は許可済み、無断引用・転載はご遠慮ください)